会社の業績は急上昇
Sさんは入社10年目の中堅社員です。上司や取引先担当者の信頼は厚く、仕事にもやりがいを感じていました。しかし、半年前から仕事量が急増し、昼も夜も休日も携帯電話を一時も手放せない状況が続いています。たまりかねたSさんは、上司に人員増加か自分の配置転換を申し出ました。Sさんの負担が大きい事は上司も承知しながら、組織の人員変更をただちに実行するだけの権限はありません。このままでは過労死しても不思議はないと、Sさんは奥さんに退職を相談しましたが、「子供もまだ小さいし、どうやって家族が暮らしていくの・・・。」と奥さんにも泣きつかれてしまいます。こんな状況のSさんに対して上司のあなたはどうすればよいでしょうか?
対策:みんながんばっているのだから
会社の業績が向上して仕事が忙しくなるのは喜ばしい事です。「もう少しだけ辛抱してほしい、人員を増やすのは来月の取り締まり役会で承認しいてもらえるよう交渉してみるから。大変なのは君だけじゃない、みんながんばっているんだよ。」上司としては精一杯の対応かもしれません。しかし、重要な立場にある社員が体調を崩して就労不能となった場合、損害がでる可能性が高い状況です。上司としては社員に対する安全配慮義務を果たす為だけでなく、会社の業績を悪化させない為にも人員増加や仕事分担の見直しを早急に実行するべきでしょう。トラブルが発生したり損害がでたりしない限り、対策をとろうとしない組織は多いものですが、上司の行動力が試されています。
対策:社長に直訴する
部下を思いやるあなたの気持ちは痛い程わかります。小さな会社では直訴も有効ですが、大きな組織となると社長といえども一存で人事異動など行えるものではありません。部下を助けるという意味では、部下の負担を軽減するあらゆる努力が失敗に終わった段階では、医療の介入という切り札を利用すべきかもしれません。
安全配慮義務とは、社員の安全を確保する為に考える事ではなく、安全を確保する為にあらゆる手段を使って行動する事を指します。緊急事態においては、部下といっしょに産業医や人事部、そして心療内科に同行するくらいの積極的な行動が必要です。
対策:休養診断書しか方法はないようだ
業績好調の会社での過労死や自殺は案外多いものです。そして、不幸にも事故が起こった職場に、悪人や加害者が一人も見あたらないケースも目立ちます。そうです、思いやりがある誠実な人々に囲まれて、過労死や自殺に至る事もあるのです。むしろ、社長や上司がとんでもない利己的で尊敬できない人であれば、社員は逃げ出す機会があるのかもしれません。上司や周囲の期待に応えたいという自己犠牲的な感情は、ある意味良い職場環境の中で発生しやすいという逆説が成り立ちます。
一社員が休職しても会社はなんとか対策をとり活動を続けます。時には人件費より高額な犠牲を払ったりする愚かさも、会社全体からみればやむを得ない要因として処理されてしまいます。そして、決算発表では何もトラブルがなかったかのように、株主やアナリストに祝福されるのが企業社会の現実の姿でしょうか。
自分や部下の健康、そして命を守る事を、他人まかせにしてはいけません。医療機関を受診して休養診断書を発行してもらうしか、解決方法が見あたらない状況もあるようです。