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会社員のためのメンタルヘルス

「課長辞めさせて下さい」  ー自分で決めましょうー

辞めるべきか、留まるべきか・・・

ある日突然、部下のAさんが辞表を提出した・・・?
「課長、僕はもう限界です。退職させてください。実家の両親も帰って来いと言っているし、しばらく休養してやり直そうと思います。」課長のKさんは、深刻な表情の部下Aさんの退職希望にとまどいます。先月も入社3年目の部下が退職したばかりでもあり、このままAさんの退職を認めたのでは自分の管理能力が問われてしまいます。「退職だなんて、急に言われても困るよ。業績が上がらなくて苦しんでいるのは君だけじゃない。みんな苦しいけどがんばっているんじゃないか。君は辞めると言う前に、自分の全力を出しきったと言えるのかね。」課長としては、すんなり退職希望を受理するわけにはいきません。「でも、どうすればいいんですか。夜も眠れないし、食欲もなくて倒れそうなんです。」課長のKさんはひらめきました。「心療内科があるじゃないか。本社からもメンタルヘルスの問題は心療内科を受診するようにと指示がきてるから心配いらないよ。明日の仕事はこちらでなんとかするから、心療内科に行ってみたら?」退職を決心していたAさんは拍子抜けしながらも、なんとなく課長の言うとおり心療内科を受診しました。会社員はいかなる時も上司の指示にしたがってしまう習性があるのです。

対応策  考え方
何を弱きな事を言っている、がんばれ 叱咤激励タイプ
 心療内科を受診してみたら  問題先送りタイプ
 よく考えての結論なら仕方ない  クールでドライタイプ

対応策:何を弱きな事を言っている、がんばれ

叱咤激励は通常の職場環境では適切な対応と言えます。ただし、メンタルヘルス不全に陥った部下に対しては効果のない場合も多いようです。特に、身体症状や健康状態を前面にだして退職を希望する場合は、治療や休養を指導するか退職を認めるかの選択肢を用意しないと、コミュニケーションがとれなくなる危険性があります。また、退職を決心した部下が感情的になっていると感じた場合は、冷却期間を持つ努力が必要と思われます。

対策:心療内科を受診してみたら

身体症状や健康状態を前面にだして部下が退職を希望する場合には、心療内科受診指導は適切な方法と言えます。ただし、部下が陥っている困難な状況を理解しようとせず、医療機関に行って下さいだけではうまくいきません。追い込まれた人間は思考の柔軟性を失い視野が狭くなっている場合が多く、心療内科を受診したとしても、「上司に受診しろと言われたから受診した。」と他人まかせで投げやりになっているものです。仕事の問題と健康管理の問題は別である事を意識して、健康な状態で退職するべきである事を説明する必要があります。

対策:よく考えての結論なら仕方ない

退職希望をすんなり認めるわけにはいかない状況がある場合、中間管理職の立場は難しいものです。ただし、職場には職業倫理や企業風土など各職場の伝統や文化があります。あくまで上司としては、退職してもらいたくない事情を誠意を持って説明して引き留めると共に、自分でよく考えて退職の決心をしているかどうかを見極めていく事が重要と思われます。

心療内科とは?

→頭痛や腹痛で内科を受診する患者さんの中にストレス障害が多く含まれている事から発展してきた領域です。代表はストレス性胃炎や過敏性腸症候群でしょうか。とにかくストレス障害は全身の身体症状をひきおこしますのでやっかいですが、ストレス要因に焦点を当てた治療ができれば心配ありません。古典的なストレス障害としては、姑にいじめられたお嫁さんが内科や産婦人科に行くのが定番でした。

組織に殺される

会社の業績は急上昇

Sさんは入社10年目の中堅社員です。上司や取引先担当者の信頼は厚く、仕事にもやりがいを感じていました。しかし、半年前から仕事量が急増し、昼も夜も休日も携帯電話を一時も手放せない状況が続いています。たまりかねたSさんは、上司に人員増加か自分の配置転換を申し出ました。Sさんの負担が大きい事は上司も承知しながら、組織の人員変更をただちに実行するだけの権限はありません。このままでは過労死しても不思議はないと、Sさんは奥さんに退職を相談しましたが、「子供もまだ小さいし、どうやって家族が暮らしていくの・・・。」と奥さんにも泣きつかれてしまいます。こんな状況のSさんに対して上司のあなたはどうすればよいでしょうか?

対応策  考え方
みんながんばっているのだから 精神的サポートに重点
 社長に直訴する 部下の為には犠牲はいとわない
 休養診断書しか方法はないようだ 切り札は最後まで残しておく

対策:みんながんばっているのだから

会社の業績が向上して仕事が忙しくなるのは喜ばしい事です。「もう少しだけ辛抱してほしい、人員を増やすのは来月の取り締まり役会で承認しいてもらえるよう交渉してみるから。大変なのは君だけじゃない、みんながんばっているんだよ。」上司としては精一杯の対応かもしれません。しかし、重要な立場にある社員が体調を崩して就労不能となった場合、損害がでる可能性が高い状況です。上司としては社員に対する安全配慮義務を果たす為だけでなく、会社の業績を悪化させない為にも人員増加や仕事分担の見直しを早急に実行するべきでしょう。トラブルが発生したり損害がでたりしない限り、対策をとろうとしない組織は多いものですが、上司の行動力が試されています。

対策:社長に直訴する

部下を思いやるあなたの気持ちは痛い程わかります。小さな会社では直訴も有効ですが、大きな組織となると社長といえども一存で人事異動など行えるものではありません。部下を助けるという意味では、部下の負担を軽減するあらゆる努力が失敗に終わった段階では、医療の介入という切り札を利用すべきかもしれません。
安全配慮義務とは、社員の安全を確保する為に考える事ではなく、安全を確保する為にあらゆる手段を使って行動する事を指します。緊急事態においては、部下といっしょに産業医や人事部、そして心療内科に同行するくらいの積極的な行動が必要です。

対策:休養診断書しか方法はないようだ

業績好調の会社での過労死や自殺は案外多いものです。そして、不幸にも事故が起こった職場に、悪人や加害者が一人も見あたらないケースも目立ちます。そうです、思いやりがある誠実な人々に囲まれて、過労死や自殺に至る事もあるのです。むしろ、社長や上司がとんでもない利己的で尊敬できない人であれば、社員は逃げ出す機会があるのかもしれません。上司や周囲の期待に応えたいという自己犠牲的な感情は、ある意味良い職場環境の中で発生しやすいという逆説が成り立ちます。
一社員が休職しても会社はなんとか対策をとり活動を続けます。時には人件費より高額な犠牲を払ったりする愚かさも、会社全体からみればやむを得ない要因として処理されてしまいます。そして、決算発表では何もトラブルがなかったかのように、株主やアナリストに祝福されるのが企業社会の現実の姿でしょうか。
自分や部下の健康、そして命を守る事を、他人まかせにしてはいけません。医療機関を受診して休養診断書を発行してもらうしか、解決方法が見あたらない状況もあるようです。

ラインによるケアとは?

→管理監督者が日常的に職場環境の問題点を把握して環境改善に努め、労働者からの自主的な相談に対応するよう努めることを指す。そして、必要に応じて事業場内産業保健スタッフや事業場外の医療機関などへの相談を指導できる体制を整える。

診断書がなんぼのもんじゃあ   -社長の憂鬱-

入社2年目の社員が不平不満ばかり言って勤務態度が悪い

入社したての頃は前向きに仕事に取り組み実績もあげていたDさんが、半年前から勤務態度が悪くなりました。注意してもより反抗的になるだけで、直属の上司ばかりか社長にまでケンカ腰になってしまう荒れようです。仕事はできるが性格に問題があると判断した社長は、退職を勧めるなどしてDさんとの話し合いをすすめていました。そんな状況で「パニック障害にて2週間の休養を要する。」との診断書が提出されます。社長が感情的になるのは、無理もないと言えるでしょう。さて、あなたが社長の右腕である専務であれば、どのように対応するでしょうか?

対応策  考え方
診断書受け取り拒否 「院長に会わせろ」と医療機関にどなりこむ
薬なんか飲むから仕事ができないんだろう インターネットで薬の副作用を調べたので自信がある
 社長の言うことがきけないならクビだ 社員には仕事上の指示に従う義務がある

対策:診断書受け取り拒否

社長は男の中の男です。身を粉にして働き、会社の為に、社員や社員の家族の為にがんばってきました。勤務態度が悪く反抗的なDさんを、このまま放置したのでは会社の志気に影響しましょう。「パニック障害などというわけのわからん診断書を発行したのヤブ医者に文句のひとつも言ってやる。」・・・気持ちはわかりますね、気持ちは。しかし、時代が30年くらいずれています。冷静に状況を分析しましょう。まずは、できるだけ中立の立場をとる事のできる人物を社内に探し、Dさんの了承を得てDさんといっしょに医療機関にでむいて、今後の対策や話し合いをすすめていくべきでしょう。

対策:薬なんか飲むから仕事ができないんだろう

安定剤や抗うつ薬で眠気が強くでたりフラフラする事はめずらしくありません。もちろん、それだけの薬が必要な状況であり適切な薬物療法ですが、家族や友人は心配します。家族や友人に服薬するなと言われて治療が中断するケースも多いのです。信頼している家族や友人のアドバイスなら、裏目にでて悪化しても問題ありません。「やっぱり服薬したほうが良さそうね。」と考えを改めるだけです。ところが、感情的に対立している相手から、服薬するなと指示まがいの事を言われてしまうと話はこじれてしまいます。「言われたとおり服薬中止したら更に悪化した、どうしてくれる。」と脅迫される危険性すらあります。通院や服薬はあくまで本人の意思を尊重して、仕事の話だけに限定して意見や考え方の違いを議論するようにしましょう。もちろん、優秀な社長さんですから、そんな基本はわかっているのです。やはり、メンタルヘルス対策ができていなかった為に、パニック障害で過敏になったDさんの言動に振り回される結果になってしまったのでしょう。

社長の言うことがきけないならクビだ

とうとう、社長の切り札を切ってしまいました。「クビだあ。」一度でいいから私も怒鳴ってみたいものです・・。いやいや、いけません。労働基準法やメンタルヘルスの勉強をした上で、利益をだしていくのが社長の仕事です。ケンカからは何も生まれないのです。そもそも、Dさんの反抗的な態度はパニック障害の症状による部分が大きく、治療後は謙虚で礼儀正しいDさんに戻っておられます。反抗的な態度は性格ではなく、疲労困憊した状況であらわれた態度だったようです。誰でも徹夜で疲労困憊している時に意地悪な注意をされたら、切れてしまうのも仕方のない事でしょう。ぐっすり眠れておいしい食事をして、はじめて紳士淑女としてふるまえるのです。同様に、メンタル不全に陥った社員は、治療を受けてはじめて優秀な社員に戻れるのです。

安全配慮義務違反?

→企業は、労働者がその職業生活のうえで身体、精神に危険が及ぶことのないように、配慮すべき義務を負担している。職業上のプレッシャーから自殺した場合にも適用される、法的根拠となる概念であり、メンタルヘルス対策は安全配慮義務を果たす為に行われる。

 

「自殺しかない」  -あなたは何をするべきか?-

まさか、自殺まで考えているとは・・・

Jさんは48歳の管理職です。部下や周囲の信頼も厚く仕事は順調です。ところが、部下の些細なミスと自社製品の欠陥が表面化した事が重なり、責任者として連日深夜まで対応に追われていました。「今までやってこれたのは、会社や周囲の人のおかげ、会社がピンチの今こそ自分が踏ん張らないといけない。」強い責任感が、Jさんを仕事に向かわせますが、表情は暗くやつれてしまって面影もありません。まさかとは思いますが、自殺まで思い詰めていたりしないかと心配です。
さて、社長の右腕として創業時からがんばってきたJさんの様子がおかしいのですが、本人は決して弱音を吐かない人です。あなたが、社長の立場ならどうしますか?

対応策  考え方
励ましてはいけない うつ病の基本です
医療機関受診指導 専門家が頼りだ
 家族に連絡 家族は気づいていない?

対策:励ましてはいけない

うつ病関連の本を読むと、必ず「励ましてはいけない。」とかいてあります。しかし、これはうつ病の一側面を表した表現であり、実際には強い態度でうつ病の人に対応しないと治療の軌道に乗せる事すらできないのがうつ病の難しさです。おそらくは、Jさんに対して励ましたりせず、「ゆっくり休養したら」程度の声かけではJさんは言うことをきかないでしょう。責任感の強い方は驚くほど頑固な側面も持ち合わせており、たとえ信頼している社長の言うことでさえ聞けなくなるものです。逆に言えば、「ゆっくり休養したら」と声をかけられても頑なに抵抗するようなら、うつ病にためにコミュニケーション能力が低下していると考えてもいいわけです。社長の立場であれば、医療機関を受診させる努力をするべきでしょう。

対策:医療機関受診指導

社長の立場であれば、うつ病が疑われる社員を発見した場合、まずは医療機関を受診させる努力をするべきでしょう。しかし、現実問題はたいへんであり、そう簡単にうつ病の人は言うことをきいてくれません。「仕事が一段落したら、病院に行かせてもらおうと思っています。お気遣いは有り難いのですが、仕事を放り出して今すぐ自分が病院に行ける状況ではありません。」などと体よく逃げられてしまうのがオチです。うつ病の人は外見やメンツを大切にする方も多いですから、社長自らがJさんを病院まで引っ張って行くくらいの積極性が必要かもしれません。

家族に連絡

社員に元気がないくらいで家族に連絡など大袈裟ではないか?確かに大袈裟かもしれません。しかしながら、精神科医として多くの自殺者の方に接してきた私は、専門家というのも恥ずかしいほど自殺予防の難しさを感じています。自殺する方は、周囲に心配かけまいと思うのか、家族や職場、そして精神科医をも欺いて自殺の邪魔をされないようにふるまうものです。ですから、私は毎日のように診療室で質問します。「自殺を考えたりしてないでしょうね?」軽症に見える人ほど自殺してしまう現実をみれば、少々変に思われてもいいから疑わしい場合は手を打つのが得策と考えています。家族に連絡して、Jさんと家族と会社側の三者での話し合いの場を持てれば、かなり確実な情報が手にはいります。そして、「家族がつきそって明日にでも病院を受診してみて下さい。」といった方向性を見いだせれば、一安心できると思います。

自殺と使用者責任

→労働者の自殺後、遺族より損害賠償請求がおこされる例が増加しており、使用者が安全配慮義務を怠ったとして賠償請求を命じるる判決も増加しています。ただし、判例を詳しくみると、長時間労働や劣悪な作業環境が存在せず、メンタルヘルス対策など会社側の適切な対応が確認された場合は、労働者自身の性格的要因が大きいとして請求がしりぞけられる例もあります。

 

優秀な社員が危ない

上司にはYESのみ

Yさんは28歳の営業社員です。入社して6年目、前向きな姿勢で仕事に取り組み、常に営業成績は社内でトップクラスの優秀な社員です。しかし、優秀な社員というのは上司からみれば仕事を頼みやすい貴重な存在でもあり仕事はYさんに集中しがちです。また、会社組織の中ではありがちなトラブルですが、係長と課長と部長の三者がそれぞれの立場で指示をだすものですからYさんとしては誰の指示に従えばいいのか迷う事も多かったようです。仕方なく残業する事で矛盾のある様々な要求に応えようと努力しました。YさんにはNOという選択枝はなかったようです。ある朝、出社しようとすると激しい頭痛と吐き気におそわれ、身体から力が抜けていきます。その日は、風邪と報告して休みましたが、会社に連絡後はすっかり元気になりパチンコに行きたくなります。優等生のYさんには今までみられなかったずる休みです。しかし、その後もズルズルと欠勤が増え、何か張りつめていた糸が切れてしまったかのように、Yさんは1ヶ月後辞表を提出しました。
さて、あなたがYさんの上司ならどう対応するでしょう。

対応策  考え方
心療内科受診指導 いつも自殺を考慮にいれる?
家族に連絡をとる マザコンかもしれません
 スランプの原因について話し合う ビジネスライクにいきましょう

対策:心療内科受診指導

素直なYさんは、指示通り心療内科を受診するでしょう。しかし、期待するような効果は得られないと思います。Yさんは従来どおり、医者と表面的な会話をして優等生らしくふるまうだけです。実際、私の診察室を訪れる患者さんは二種類に分かれます。自ら苦悩しており、問題解決になんとか力を貸してほしいと助けを求める患者さん。そしてもう一方は、会社から行けと言われてとか友人にすすめられてといった他人に背中を押されて来た患者さんです。特に、会社の指示で受診した場合は、仕事上のミーテイングか何かと勘違いしている人もあり、事務的な口調で話し治療に拒否的な姿勢が目立ちます。「今回の取引は遠慮させて頂きます、失礼します~じゃねえだろう、問題はあんた自信なんだよ。真面目に考えろ。」と私が切れたくなる感じです。仕事上の問題を会社内で話し合う事が重要であり、Yさん自身が治療の必要性を感じてからの受診でも遅くはないでしょう。

対策:家族に連絡をとる

自殺の危険性があれば、家族への連絡は最重要となります。しかし、欠勤が続き辞表が提出された段階では、自殺を心配する兆候はみあたらないと言えます。現代は大人になるのが難しい時代と言われていますが、20歳代で精神的に親から自立できていない人も目立ちます。へたに家族と連絡をとっても混乱が深刻となる場合もあり、上手な方法とは言えないでしょう。退職を認めるにしろ引き留めるにしろ、大人の社会人としてYさんに向き合ってください。

対策:スランプの原因について話し合う

会社内の仕事上の議論を落ち着いてすすめる事が重要と思われます。元々は優秀な社員であるYさんですが、よく話をしてみると意外に幼い未熟な一面を見せる事もあります。20歳代の社員には様々な能力が部分的に発達する場合もあり、仕事上の優秀さと人間関係のバランス能力は別物なのでしょう。仕事上の問題をビジネスライクに、そして真剣に話し合う事によりYさんが引き留まり再度活躍する可能性も見いだせるのではないでしょうか?

 

人材流出は損失です

優秀な若手がうつ病で退職していくのを目の当たりにして、大企業トップがメンタルヘルス対策を指示した例もあります。企業は人であると言うのは簡単だが、優秀な人材を引き止める方法論が重要です。もちろん、メンタルヘルス対策は、優秀な社員を引き留める目的においても重要です。

 

女20歳代、いろいろあるんです。

過食と拒食とパニック障害

Oさんは26歳、責任感が強く優秀な事務員です。入社して4年間大きなミスもなく仕事をこなしてきましたが、3ヶ月前から欠勤やミスが増え仕事に支障がでてきました。当初は一時的なものと考え上司は寛容な態度で様子をみてきましたが、取引先に迷惑をかけるようになった状況では放置できません。Oさんと仲の良い面倒見のよい先輩事務員が対応したところ、Oさんは事情を話してくれました。悩みの内容は4つです。①職場内で新人とうまくいかず孤立感がある。②親に早く結婚しろと言われる。③友人が出産した話をきいて落ち込んだ。④過食になったり拒食になったりして体調が悪い。・・・
さて、あなたが上司であれば、どう対応するでしょうか?

対応策  考え方
話し合いの場を持つ 仕事上の問題を整理する
心療内科受診指導 保護的に対応する
 家族と連絡をとる 仕事以外の要因を疑う

対策:話し合いの場を持つ

仕事のストレスや仕事上の悩みが語られる事は多いが、話をしている間にテーマが少しずつ変化する場合は解決につながらない。そして、議論が煮詰まってくると体調の方に話題がシフトしていく場合は、仕事以外の言いにくい要因の関与を疑うべきである。上司や社長が優しい人の場合は、問題のある社員に振り回されてしまうケースも目立ち、注意が必要である。仕事に支障がある場合は、社員側に治療を受けて労働能力を回復させる義務があるといった厳しい考え方をするべきであり、「なんとか力になってあげたい。」などと甘い考えは良くない。会社は雇用契約を基本とする人間関係を維持すべき空間です。・・・要らぬ心配かもしれませんが、優しい男性上司が独身女性のプライベートな悩みの相談にのってあげてはいけません。

対策:心療内科受診指導

社員が体調不良を訴えた場合、医療機関受診指導は適切な指導と言える。ただし、社員自身が社会経験に乏しく社会人としての基本的なトレーニングができていない場合には、心療内科医にまかせただけでは問題解決につながらない場合も多い。状況に応じて会社側の担当者を決めて、医療機関や本人とコミュニケーションのとれる体制作りが必要である。医療機関には守秘義務があるので会社の人間が単独で出向いても門前払いとなる。必ず、本人を説得して本人と会社担当者と医師の3者面談をする事を本人に了承してもらう事が重要。その際、労働能力があるのかどうか、危険を回避できる能力があるのかどうかといった点を話し合い休職するべきかどうかを検討する事になる。細かなプライベートの問題に触れる必要はないし、ふれない方がうまくいく・・・と思います。

対策:家族と連絡をとる

自殺の危険性が低い場合には、あえて家族と連絡をとる必要はありません。むしろ、家族が感情的になって話がこじれる危険性もあります。また、会社では一人前にふるまっていても、親子関係では親離れできていない未熟性を見せてしまうケースもあります。また、家族と連絡をとる事で、本人が両親や会社に対して依存的となったりします。やはり大人として、そして社会人として対応するべきでしょう。

 

ストレス脆弱性理論

→ 生まれつきの素質としてストレスに抵抗する力の個人差があります。そして、その個人のストレス抵抗力を上回る負荷がかかった時、精神障害を発症するという理論です。統合失調症の発症メカニズムの研究からでてきた考え方ですが、現在はうつ病など多くの精神障害の発症を説明できると支持されています。病気か病気でないかという議論ではなく、ストレスが許容範囲を超えてしまったのかどうかという風に考えましょう。

 

課長Kさんは安全衛生委員です

安全衛生って評価されるの?

課長Kさんは安全衛生委員に任命され、職場環境について現状を見直し問題点を報告するようにと上司から言われました。ただでさえ忙しいこの時期に、仕事を増やされて納得できません。「何が安全衛生だ、メンタルヘルスだがうつ病だが訳わかんない事言ってる場合じゃないだろう。今月の営業成績は放っておけとでも言うのか?まったく、やってられないよ。」上司から渡された書類に目を通しながらも、退職希望の部下の様子も気になります。「あいつが辞めたら、オレの責任になって降格でもされるのかな・・・。どうせ営業成績が悪くて降格されるのは時間の問題だし、どうでもいいか。ん?ちょっとマイナス思考かなあ。もしかして、オレがうつ病ってのになっているのかなあ。」 
あなたが、K課長の立場であればどう対応するのでしょうか?下の表から、ひとつをクリックしてシュミレーションしてみましょう。

対応策  考え方
嫌々ながら事務的にこなす 表向きだけでいいや
前向きに努力する 上司の命令は絶対です
営業成績向上につなげられないか考える 自分の評価はどうなるか

対策:嫌々ながら事務的にこなす

納得できない気持ちのまま仕事を続ける事はメンタルヘルス的には非常に危険です。評価もされないよう業務を消極的な姿勢で続けた挙げ句に、些細な失敗で注意されたりすると、納得できないばかりかやり場のない怒りが自らの身体を傷つけるようになります。「やり場のない怒り」を辛抱した結果、円形脱毛症や胃潰瘍などの身体症状があらわれます。「何が安全衛生だ、メンタルヘルスだがうつ病だが訳わかんない事言ってる場合じゃないだろう。今月の営業成績は放っておけとでも言うのか?まったく、やってられないよ。」という気持ちを、整理して、自分なりに納得できる考え方に変えていく努力をしましょう。

対策:前向きに努力する

会社や上司の命令に逆らわず前向きに努力する事は、適切な勤務姿勢です。ただし、会社や上司が、現場の事情を理解せずに指示を出す事はめずらしい事ではありません。厳しい企業社会を生き抜くためには、単純に努力するのではなく、自分の立場で問題点を提示していく姿勢が重要です。メンタルヘルスの導入は試行錯誤の段階であり、会議や雑務が増えただけでメリットを感じられない状況も多いものです。せっかく、経費とエネルギーを投入するのですから、効果を上げるための、現場の事情に合った方法論を提案していきましょう。安全衛生委員会を立ち上げて委員を任命してからの、意見のぶつかりあいや議論があってはじめて、実効性のあるメンタルヘルス対策になると言えます。

対策:営業成績向上につなげられないか考える

自分の成績にプラスになれば、雑務が増える事は気にならなくなります。メンタルヘルス対策は、うつ病の発生などを予防する事も大事ですが、本業である日常業務の効率化や活性化に貢献できなければ本来の姿ではありません。カナダ国有鉄道がEAP(雇用者支援プログラム)というメンタルヘルスサービスを導入して休職者の数を減らし、経営面の効果を証明した事は有名な話です。中間管理職や現場の社員が生き生きと働ける職場環境を構築していくために、安全衛生委員を引き受けましょう。

心の健康づくりの基本

・セルフケア
・ラインによるケア:安全衛生委員の任命もここに含まれます。
・事業場内産業保健スタッフによるケア
・事業場外資源によるケア

お疲れさまでした

メンタルヘルス対策は組織活性化のために

私の診察室において、疲れ果ててうつ病になった社員の治療の際には、会社の特徴を理解せずには問題解決が難しい状況が多いものです。また、会社側の対応のまずさに驚かされる事さえあります。立派な福利厚生制度や給与体系を構築しながら、メンタルヘルス不全者に対する対応となると、突然、企業の組織プレーが機能しなくなる事はめずらしくありません。メンタルヘルスに関する法令や社会制度を理解し、メンタルヘルスの知識を持つ事が、経営者であれパートタイマーであれ、労働に従事する者全員に必要な時代と言えます。やまぐちメンタルクリニックは、組織を活性化させて企業業績向上に寄与できるメンタルヘルスサービスを提案していきたいと考えています。

 

メンタルヘルス不全とは?

→うつ病やパニック障害の精神障害だけではなく、出社拒否症、仕事上のストレスによる遅刻や欠勤の増加など、広い範囲のこころの健康状態が悪化した状態を表します。上司とのコミュニケーションがうまくいかず悩んでいる新人君もメンタルヘルス不全です。